脳動脈瘤は破裂すると、くも膜下出血を引き起こします。では予防するには、どのような治療を検討すればよいのでしょうか? 脳動脈瘤が破裂する事でくも膜下出血を引き起こすのですから破裂する前に治療すれば、くも膜下出血を予防することができます。
「未破裂脳動脈瘤」の大きさが5mm以下であれば「経過観察」をする場合もありますが「未破裂脳動脈瘤」が5mm以上であれば積極的な治療が検討されます。
治療法としては「未破裂脳動脈瘤」の外科治療です。
大きく分けて2種類の手術が効果あると考えられていれます。
一つは、頭蓋骨を開けて未破裂動脈瘤をクリップではさみ込み閉塞(ふさぐ事)する「クリッピング術」と、血管内治療の1種でマイクロカテーテル用いて「未破裂脳動脈瘤」の内部分を「コイル」で満たし血栓化させる脳血管内治療である「コイル塞栓術」とがあります。
「経過観察」とは「未破裂脳動脈瘤」定期的に観察を行う治療法です。現在、治療の主流は開頭クリッピング術とコイル塞栓術ですが、合併症の出現する可能性もあります。患者様の年齢・動脈瘤の部位・形状を考慮して治療方針をご本人やご家族の意向を尊重して決定します。定期的な検査(3D-CTAやMRI)と未破裂脳動脈瘤を破裂させる、原因となる要因への手術以外の方法で対処し瘤の大きさや形が変化した場合に外科的処置を検討します。具体的には高血圧の方は破裂のリスクが高くなりますので薬を用いて血圧のコントロールをおこなったり、喫煙をされる方も破裂のリスクが高くなりますので禁煙プログラムを適応させて頂く場合もあります。又、日常生活での過ごし方についてご指導致します。
開頭手術には「クリッピング術」・「トラッピング術」・「コーティング術」・「ラッピング術」があります。「クリッピング術」は歴史もあり日本で未破裂脳動脈瘤で一番多く用いられる手術法です。全身麻酔での手術となります。
頭皮を切開し頭蓋骨の一部を開口します。手術顕微鏡の視野のもと、脳動脈の一部が膨らんでその血管壁が弱くなってできた「脳動脈瘤」の根元部分をチタン製のクリップで挟み込みます。瘤の根元部分を閉塞する事により動脈瘤への血液を完全にせき止める事ができます。動脈瘤の破裂を予防できる根治性治療となります。高度な技術を必要としますので経験を積んだ専門医によって施術されます。
血管内手術による「コイル塞栓術」です。開頭を必要としない低侵襲手術です。局所麻酔を大腿の付け根に用います。大腿の動脈からカテーテルを動脈内に挿入していきます。レントゲン透視にて確認しながら、頸部の動脈までカテーテルを導きます。そのカテーテルの中に更に細いマイクロカテーテルと呼ばれる管を通して、これを脳動脈瘤内まで到達させます。コイルと呼ばれるプラチナ製の細い糸をマイクロカテーテル内に通して患部の動脈瘤内までおくりこんで糸を巻くように充填していき、切り離します。コイルが動脈瘤内に十分詰まるまで繰り返します。
動脈瘤内をコイルがみたした事を確認しカテーテルを抜去して手術を完了します。コイルが動脈瘤内をみたし破裂を防ぎます。 難しい手術ですので専門医よって施術されます。
外科的治療(開頭手術や血管内治療)を行わず経過観察する場合は、喫煙や大量の飲酒を避けて、高血圧を治療します。経過観察する場合は半年から約1年毎にMRIやCT画像による経過観察を行うことが推奨されます。
未破裂脳動脈瘤の破裂リスクを考えると、余命が10~15年以上ある場合に、下記の病変について治療を検討することが推奨されます。
動脈瘤の高さ(深さ・奥行き)を動脈瘤頸部(ネック=母動脈)の長さで割った数値の事。
ブレブとは突出した部分を持つ動脈瘤の事で、大きさに関わらず危険だとされています。
経過観察 | クリッピング術 (開頭手術) |
ラッピング術 (開頭手術) |
トラッピング術 (開頭手術) |
コイル塞栓術 (血管内手術) |
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破裂のリスク | △ (変わりない) |
◎ (最も確実に減らす) |
○ (減らす) |
○ 「クリッピング術」の活用術・クリッピング術と同等の効果 |
○ 「クリッピング術」よりは劣る |
治療のリスク | ◎ (無い) |
△ (ある) |
△ (ある) |
△ (ある) |
△ (ある) |
主な治療対象 | 高齢の方、 小さい動脈瘤 |
大きい動脈瘤、中大脳動脈瘤、血栓化動脈瘤 | 小さい動脈瘤 | 比較的大きい動脈瘤でクリッピング術だけでは対応できない場合 | 脳の基底部や深部などに発生した特殊な動脈瘤の場合、視野が限られ手術操作が難しい場合 |
将来の心配・不安 | △ (続く) |
◎ (最も少ない) |
○ (再治療の必要なこともある) |
○ (再治療の必要なこともある) |
○ (再治療の必要なこともある) |
開頭手術による未破裂脳動脈瘤の効果(長期成績)は、治療した脳動脈瘤の再発や、新しく生まれた動脈瘤の破裂などによるクモ膜下出血の発生率は10年で1.4%、20年で11.4%という報告※3があります。たとえ開頭手術(クリッピング等)が完全でも、長期の経過観察が必要となります。当院では、患者様の病変に応じて手術をするかどうかを判断します。
※3)Tsutsumi K, Ueki K, Usui M, Kwak S, Kirino T. Risk of subarachnoid hemorrhage after surgical treatment of unruptured cerebral aneurysms. Stroke 1999;30:1181-1184
未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療のについては、離脱式コイルを用いて91%の病変を完全あるいは準完全に閉塞することができたという報告もあれば、完全閉塞率は54%であったという46報告の集計※4 ※5もあります。今のところ、未破裂脳動脈瘤治療後の効果(長期成績)に関しての報告は少ないです。
開頭手術を行った場合、長期間経過を追うことが推奨されます。また、血管内治療においても、治療後も不完全閉塞や再発などについて経過を観察することが推奨されています。
引用文献:脳ドックのガイドライン2014 未破裂脳動脈瘤の対応より